忘却予防ライン

海馬がDB化されるまで、人は何かを書かねばと強いられているようです

お前のモラトリアムは何色だ(感想「エトランゼのすべて」)

エトランゼのすべて (星海社FICTIONS)

エトランゼのすべて (星海社FICTIONS)

リアル大学生世代の決断主義

話の内容以上に、著者がこのように軽妙な語り口の作品を綺麗にまとめあげていることに驚いた。なぜって、自分が最後に読んだのは「不動カリンは一切動ぜず」であり、仮に本作の濃度を10としたら不動カリンは50くらいはある。当社比5倍だ。何が言いたいかというと、作風の広さに強い関心を抱いた。


大学生活を充実させようにもチャラいサークルには手を伸ばすことが出来ず、気づけば何の活動をしているか分からないような、謎サークルに入った主人公の話。私はなんでもわかるのですよ、と微笑むヒロインたる会長が、とても神々しい出だしで始まる。各キャラ達が、等身大の大学生像を類型的に示している点から、何かメタいものを想起しながら読んでいたが、とてもすっきりとした読後感を得ることが出来た。

一般的な大学生ってこういう感じなんじゃないのかな、という森田氏の想像力が働いているであろう本文からは、自分自身共感を得るものがいくつもあった。よく見ると著者と自分の年齢が一致しているので、これは世代的な感覚なのかもしれない。


物語後半でモラトリアムの延長について説かれている点は、現代大学生における決断主義を想像させる。
退くも地獄、進むも地獄、止まるも地獄、の日本経済特有の辛さがまろやかに表現されていると言ってよいだろう。ようするに就職するかしないかという話だ。
自分としてはヒモ島先輩の結論にいたく共感している次第であり、リスクヘッジという言葉を安易に使う大人になってしまったと反省するばかりである。


ところで最近、ライトノベルの水戸黄門化が進んでいるのではないか、という話を会社の喫煙所内でした。
その幻想をぶち壊す左手の紋所が世には溢れているようで、日本人はもしかしたら叱られることに飢えているのかもしれない。松岡修造氏のようなリーダーが求められる熱い時代が再来しているのかもしれないと考えると、他人事だけど勘弁してほしいものがある。かしこ。